共産主義者同盟(統一委員会)






■政治主張

■各地の闘争

■海外情報

■声明・論評

■主要論文

■綱領・規約

■ENGLISH

■リンク

 

□ホームへ

  
  
  
■『戦旗』1609号4-5面
   
コロナ禍の中で呻吟し続け、
    闘いを始める女性たちの力で
    女性解放運動を前進させよう

                                井上 有生




 コロナ禍が始まって三年目に入った。コロナ禍は、弱い立場に今まで追いやられていた女性や外国籍の人々の問題を暴き出した。ここでは、女性解放運動の前進を勝ち取るためにおもに女性たちの現状と闘いを紹介したい。


●1章 コロナ禍が浮かびあがらせた女性たちの現状

▼1章―1節 家族への責任を押し付けられた女性たち

 二〇二〇年一月一五日に国内で初めての感染者が確認された後、安倍首相(当時)は、二月二七日に小中学校、高校等の臨時休校の要請を行った。本来行うべき地方自治体の教育委員会の「決定」は形式的に行われ、学校の臨時休校が安倍の鶴の一声で三月一日から順次始められた。「緊急事態宣言」が段階的に解除されながらも、臨時休校は五月二五日の全面解除まで続けられた。
 この、決定から実施までほとんど準備の時間が与えられない中、実施された「臨時休校」は、学校現場はもとより、子どもたちを育てる家庭を直撃した。幼い子供たちを一人で家に置いておくわけにはいかない。学童保育や保育園も「登園自粛」が要請された。誰が仕事を休んで子どもの世話をするのか! この政策を決定した安倍は、おそらく子供の面倒を見るのは専業主婦の母親たちだから急に決めても何の問題もないと思っていたのだろう。なんという時代錯誤的な認識だろうか。
 今や、男が働いて稼ぎ、女は家庭を守るという、政府が様々な所で「モデル」としている家族の形はなくなりつつある。総務省の「労働力調査」によれば、男性のみの稼ぎで生活している世帯は五六二万世帯、男女共稼ぎ世帯は一二四五万世帯で、既婚世帯の69・4%が共働きとなっている。夫婦で子どもを育てていれば、どちらかが休む、交代して休むことも可能であった。しかし、正社員が主な対象だと思われる「連合」の「男性の育児等家庭的責任に対する意識調査2020」によればコロナによって保育園、幼稚園が休園した場合、約80%の家庭で女性が面倒を見ていたと回答している。いざとなればやはり女性が子供の面倒を見るということが当たり前のように行われていた実態が明らかになっている。
 また、全国の母子世帯は、この事態の中でより一層深刻な結果をもたらされた。厚生労働省の「平成二八年全国ひとり親世帯等調査結果」によると、母子世帯は全国で一二三・二万世帯、離婚で母子世帯となった者が約八割、八割以上は就業しており、平均年間就労収入は二〇〇万円、児童手当や児童扶養手当を含めた平均世帯収入二四三万円である。単純に一二ヵ月で割れば月二〇万円ほどの収入で暮らしている。働くシングルマザーのうち正規雇用に就いている人の割合は44・2%に対し、パートやアルバイト、派遣社員といった非正規雇用で働いている人の割合は合計で48・4%だった。こうした少ない収入と不安定な雇用で働いている女性たちは子供の学校が休みになる=失業という事態に強いられることになった。
 子供の学校などが休みになったのでやむを得ず仕事を休んだ場合には、事業者が法定有給休暇とは別に有給の休暇を取得させることになっている。そして、事業者に「小学校休業等対応助成金」が支払われるようになった。しかし、この助成金は企業が都道府県の労働局に申請することで、企業に支給されるものである。そもそもこの制度が活用されるには、事業者が有給で休むことを認めなければ成り立たない。厚生労働省の調査によれば、子供のいる世帯は、約一一二二万世帯(二〇一九年)である。「小学校休業等対応助成金の支給実績一四万一一三五件支給金額四七五億円(一件当たり約三三万六五五七円)」(二〇二〇年三月~二〇二一年三月)しかなく、厚労省の特別窓口に「事業者が休んだ期間の賃金を支払ってくれない」という相談が四〇〇件寄せられ、厚労省の働きかけにも関わらず「制度を導入しない」と答えている事業者は四一件あった(二〇二〇年一一月~二〇二一年二月)。おそらくこれは、氷山の一角であろう。労働相談やコロナ年越し相談村、女性のための相談会に寄せられた相談によれば、失業したきっかけは、コロナによる雇い止めや事業所の休業・廃業の他に「子どもの学校が休みになり、辞めざるを得なくなった」というものも多く寄せられた。また、急増した女性の自殺の遠因ともなっている。
 この学校の一斉休業の結果、図1にあるような就業状態となっている。二〇二〇年三月の就業者総数は、男性が三九万人減に対して女性は七〇万人減と大きく落ち込み、女性については未だに回復していない。
 この時期に行われた「アベノマスク」という愚策以上に、この学校一斉休校は、教育を受ける権利を子どもたちから奪ったのみならず、何の補償もなく職場から女性たちを追い出し、家庭に閉じ込めた政策として許しがたいものである。この一斉休校がコロナ対策としてはほとんど意味をなさなかったことは、現下に進行する第六波が子供たちへの感染の広がりとして拡大しているが、感染源は学校にはほとんど無く市中にあることで証明されている。だから、この学校一斉休校政策は現在全く行われていないのである。しかも、こうした弱いものにしわ寄せをすることを当然のように振る舞う彼らは、コロナを奇貨として「学校でのコンピューター教育の推進」という政策を打ち出し、教育における貧富の格差を拡大し、学校現場を疲弊させている。支配者どもは人々の命や生活よりも金儲けの方が大切なのだ。こんな奴らを絶対に許さない運動と女性同士の連帯した力を作り出そう。

▼1章―2節 企業の廃業や休業がもたらしたもの

 コロナ感染拡大は、二〇二〇年五月末に一旦収まったかに見えたが、七月に再び増加傾向(第二波)となった。八月上旬をピークとして再び減少傾向となった。しかしながら、新規感染者数は、一〇月末以降増加傾向となり、一一月以降その傾向が強まった(第三波)。二〇二一年三月~六月に第四波となり、二〇二一年七月から始まった第五波は、全国での新型コロナ入院患者数は一時二〇万人を超え、第五波の新型コロナの累計入院患者数においては八〇万人に達した。
 こうした中でもオリンピック・パラリンピックが強行された。一時、東京都内だけで四万人を超える自宅療養・宿泊療養者がいた。医療機関のキャパシティを超えて感染者が発生したため、この中には、酸素投与などを要するため本来は入院が必要であった方も含まれている。自宅やホテルなどで酸素投与が行われる事態となり、残念なことにご自宅で亡くなられる方も多く発生した。緊急事態宣言は、一〇月一日に解除された。
 現在は、二〇二二年一月頃から始まった第六波の真っただ中にある。厚生労働省は、二月一八日新型コロナによって現在療養している八三万九六四三人のうち約69%五七万七七六五人、療養先が決まっていない「療養先調整中」の人が二〇万六〇四七人と発表している。オミクロン株は、重症化率や死亡率が比較的少ないと言われているが、高齢者等を中心に死亡者はほぼ二月に入り毎日二〇〇人となっている。儲け中心の新自由主義政策によって脆弱化した医療体制はこのように人々を苦しめているのである。
 こうした中で、「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」が繰り出され、この結果飲食店などの「営業自粛」が行われた。女性労働者、とりわけ非正規の女性労働者の多くはこうしたコロナの影響をもろに受ける業種で働いている(図2「産業別雇用者の男女別・雇用形態別の割合」参照)。女性たちは次々と働く場から追い出されている。
 とりわけ、いま問題となっているのは「シフト制勤務」についてである。非正規の働き方として、事業者が組んだシフト(勤務日等割り当て表)のある日だけ働ける働き方で、飲食店や介護施設、学習塾等に多い。連合の推計によれば「公式統計の『完全失業者』は、男性一一四万人に対し、女性八〇万人。しかし、シフトが激減し、かつ休業手当を受け取っていないパート・アルバイトの『実質的失業者』は、女性一〇三万人、男性四三万人。退職後、再就職や求職活動をしていない『女性の非労働力化』も進んでいると言われている」(連合のホームページより)。コロナによる事業の縮小や休業を余儀なくされ、労働者に対して雇用維持を図った場合に、事業主の申請(労働者からも申請できるが、事業主が休業等をしていた期間の証明が必要)に基づき事業主に対して労働者に支払った賃金の一部を助成する制度として「雇用調整助成金」がある。しかし、シフト制勤務の場合、「既にシフトに入っていて勤務できなかった期間の賃金さえ支払わず、休業中でシフトを組んでいない期間は支払う義務すらない」ということが横行しており、「雇用調整助成金」の申請も行われていない。コロナ前に子育てをしながらどうにかこうにか生活をしていた女性たちは、突然無収入となり、生活が困窮している。
 野村総研の調査によれば「『実質的失業者』であるパート・アルバイト女性の約六割は、コロナの影響を受ける前の世帯年収が四〇〇万円未満でした。シフト減のパート・アルバイト女性全体で見ても、五割以上が世帯年収四〇〇万円未満の世帯でした。コロナ前、パート・アルバイト先の収入が世帯の家計を支える重要な収入であったことが推察されます。シフト減のパート・アルバイト女性の六割近くが『シフト減の場合も休業手当支給の対象』であることを全く認識しておらず、知っているのはわずか二割でした。また、休業手当を受け取れない方々が自身で申請できる『休業支援金・給付金』を知っているパート・アルバイト女性は1割強に留まり、六割が今回初めて知ったと回答しています。制度を知っている人であっても、九割近くが申請していない状況にあります」(野村総合研究所NRIでは、全国のパート・アルバイト就業女性五五八八九人と、そのうち新型コロナウイルス感染拡大の影響でシフトが減少している五一五〇人を対象に、インターネットアンケート調査を二〇二〇年一二月に実施した。野村総研ホームページより)。
 このようにほとんどの女性たちがこれらの制度を知らないか、知っていても申請していないことが推測される。年末年始にかけて行われた「女性による女性のための相談会」でもこうした実態を垣間見ることができた。女性たちが、自分や家族が生きていくことに必死になり、社会的な関係性から閉ざされ、誰かに相談することができず、雇い主に文句も言えない、というところに押し込められている実態が明らかになったのである。こうした女性たちと手を結び共に前進することが今問われている。労働組合に加入し闘いを開始した女性たちもいる。共に頑張り合おう。


●2章 女性たちを自殺に追いやらないために

 コロナは、失業や困窮だけをさらけ出したのではない。コロナによって夫婦とも、あるいは配偶者が失業する。在宅勤務が奨励され、いつもは家にいない配偶者が家にいる。狭い家の中に閉じ込められた家族。ストレスのはけ口に女性たちは配偶者からのDVを受け、あるいは家族からのDV(虐待)を受け、いる場所を失った女性や子どもたちは、黙って耐えるか、自殺をするか、なんの当てもなく家出をして路上をさまようしかなくなっている。この間急増している女性の自殺(二〇二〇年は二〇一九年に比べて八八五人増の六九七六人)や犯罪行為に走る子供たちが増えているのはコロナによるものが多いである。コロナが病原菌としてだけ命を奪うのではない。「女性による女性のための相談会」にはこうした人たちからの相談も多く寄せられた。ほんの数時間の相談会の会場の中にいるだけで女性たちは癒され、次の第一歩(生活保護の申請など)を踏み出す決意をした。しかし、この場に来られなかった女性もいる(新宿の大久保公園のそばのホテルから無理心中をしようとして誤って子供を突き落とした人もいた。)
 日本では女性保護政策は長く「売春防止法」で行われてきた。売春防止法(売防法)は売春を助長する行為を処罰し、売春を行うおそれのある女性(要保護女子)の補導処分と保護更生の措置を講じることで、売春を防止することを目的としている。一九五六年の制定以来、抜本的な見直しはされていない。要保護女子も刑事処分の対象としており、困難に直面する女性の人権を擁護し支援するという概念に欠けている法律である。現在この法律を抜本的に改正し、女性支援法を早期に制定すべきだという動きが女性解放を闘う活動家や超党派の女性議員によって始まっている。当事者の立場に立った、実効性のある新法を作らせていくことは急務である。
 また、自治体の「婦人相談所、婦人相談員、婦人保護施設」や「ハローワーク」等で働く多くの女性たちは「会計年度任用職員」という非常勤職員として働いている。相談を受けている側もワーキングプアとして働いているのである。安定した相談体制や職業紹介を行うためには、こうした職員の正規職員化も同時に行う必要がある。今働く女性たちによってこうした闘いも開始されている。


●3章 女性を救済対象ではなく解放主体へ

 今、コロナ禍の中で呻吟し生活苦に追いやられている人たちのための様々な市民運動や労働組合などによる相談活動が行われている。こうした活動は今必要なことであり、是非とも行わなければならないことである。しかし、ともすれば女性を救済対象としてのみ捉え、お助け活動でよいとする傾向がある。
 労働相談の現場での経験によればこうした「問題請け負い」型の相談は、相談者は自分の相談が終われば去って行ってしまう。しかし、当事者との会議を他の人たちも交えながら、それぞれの経験を出し合い、団体交渉の現場にもみんなで行くというスタイルを作った場合、多くの当事者は「自分の問題は自分だけの問題ではない」という自覚が生まれ、団結した力で解決に向かい、組合への定着率も高い。
 生活相談は、この労働相談活動の経験と直接アナロジーできないが、社会的な関係から切れ、孤立している当事者たちを他者との共感を行うための活動に参加させることも必要なことだと思う。特に、「このような苦境に立たされたのは自分のせい」という「自己責任」のくびきから解放することは大切なことである。こうした活動もささやかではあるが開始されている。当事者を解放主体として捉え、その主体性を引き出し、共に闘うために手を携えていこう。
 また、現在様々な施策が「コロナ対策」と称して行われているが、ほとんどの施策が「世帯単位」「世帯主主義」で行われているので、必要とする女性たちの手に届いていない。また、「雇用保険」加入が条件となっているために、様々な施策から弾き飛ばされている人たちも多い。そして、そもそも労働賃金が低すぎて、「給付金」も賃金をベースにしているから低い。働くことができても低賃金では貯金すらできない。最低賃金を全国一律にして生活できる賃金に変えていくことも必ず行おう。
 こうしたことを変えていくのは労働組合、労働者階級の役割である。「年越しコロナ相談村」や「女性のための女性による相談会」では、相談内容を分析しながら政策につなげる活動を開始している。議員にお願いするのではなく、自分たちの手で変えていくために広く人々を巻き込み、コロナ禍における問題を解決していこう。こうした活動こそが女性解放の前進につながるのである。共に闘おう。



 



Copyright (C) 2006, Japan Communist League, All Rights Reserved.